ライター、ワインエキスパート【冨永真奈美】

MY VIEWS

日本語で書く、英語で書く、市場は世界規模、信用を貯める、信頼残高を積み上げる

英語で書く

5月の1週目に一通のメールが入った。見たことのないメールアドレスである。

ある知人から私の名前を聞いて連絡をしてきたというこの人は、丁寧に自己紹介をした後「英語で記事を書いてほしい」と続けた。

この知人とはアートの分野で活躍する人である。休み中なのに「やる気スイッチ」が入るのを感じた。

この数年、良くも悪くもさほど大きな変化のない安定した業務が続いていた。穏やかな海を航海していたら、少し船を揺らすような波風が押し寄せてきたような感じだった。

プロのライターとして、日本語に加え英語でも書く機会があればとは思っていた。市場が世界規模に広がるからである。

しかし、卓越したプロの英語ネイティブライターは、当然ながらすさまじく高度な英語運用力を持っている。その高度な運用力をベースに、緻密かつ的確に言葉や表現を選択し、優れた筆力によって読み手を惹きつける文を書き上げる。そこに「深みには欠けるが概ねOKで良しとする」という甘えはない。「なんか違うよね」といったニュアンスのずれもない。「いかにも英語を第二外国語とする人が書いた」ような稚拙さもない。媒体の分野や内容、使途、読者層、質、知名度にもよるので絶対そうだとは言えないけれど。

市場は巨大とはいえ、英語ネイティブのプロライターは星の数以上にいるだろうし、競争も激しそうだし、なによりいろいろとやり取りや交渉もめんどくさくてややこしそうだし(笑)。そんななかで適正価格以上の報酬を継続的に得るのは、不可能とは言えないとしてもかなり困難なことであろう。なもので、「取材やインタビューで英語を使えど、製品となる文は日本語で書く」のが順当な判断となる。

いいか。あんまりあれこれ考えなくても。日本の市場だけにフォーカスするよりも、最終的には分母が増えるよね。時間をかけて取り組めば追い追い何とかなるだろう。と、あっさりポジ思考に切り替えた。

日本語と英語はものすごく異なる言語だ。どちらも素晴らしい言語であるとともに、これほど多くの面で共通性と親和性に乏しい組み合わせもないだろう。でもだからこそ、両方とも深く探るに値すると言える。両方をフルに活用しないともったいない。

また、紹介による仕事がもっとも成立しやすいので、今回のようなケースはやはりうれしい。信用を貯める、信頼残高を積み上げる。これが今後のキャリアでますます大事になる。

そのようにあらためて思ったお休みとなった。

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