ライター、ワインエキスパート【冨永真奈美】

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フェルッチオ・ランボルギーニへの手紙、ランボルギーニのワイン、ウラカン・ペルフォルマンテ (スーパーカーとワインについてのお手紙風エッセイです)

ランボルギーニワイン

フェルッチオ・ランボルギーニ様

背景

初めて、そして突然お手紙を差し上げる失礼をお許しください。私はライター・翻訳家の冨永真奈美と申します。

フェルッチオ様が創業したアウトモビリ・ランボルギーニとのお取引が始まって早10年となります。この間にそれはもういろいろなことがありました。いえ、愚痴を言いたいのではありません。時代を超越した傑作モデルを次々と世に送り出したラグジュアリー・スーパーカー・ブランドであるランボルギーニと、その生みの親であるフェルッチオ様を称えるために筆を執った次第です。

「フェラーリに対抗するスポーツカーを創る」と豪語してサンタアガタ・ボロネーゼに自動車工場を建てたフェルッチオ様を「さすがに頭がおかしくなったか」と周りは案じたそうですね。

アウトモビリ・ランボルギーニとの最初のお仕事は、アヴェンタドールに関する案件でした。見慣れぬ自動車用語で埋め尽くされたファイルに、メンバーと共におそるおそる取り組みました。いくつかの案件を終えて気付いたのは「ランボルギーニモデルとは、工芸、デザイン(工業製品)、純粋なアートの全領域に絶妙なバランスで属する傑作」だということ。当時、あるデザイナーたちのデザインプロジェクトや出版に関与していたことが幸いしました。そうでなければアプローチを誤っていたかもしれません。歯に衣着せぬ物言いで知られていたフェルッチオ様が上司であったなら、「そんなことも分からんのか!」とカミナリを頂戴していたことでしょう。

しばらくすると、「夜間移動後にダブルヘッダーでレース参戦」といったけたたましさで依頼が入るようになりました。心身共に消耗が激しかった時期は、毎年3月のジュネーブ・モーターショーの直前です。新モデルデビューに向けた一連の媒体や文書はすべて [Internal Use Only]または「Embargo」の定めがある秘密情報で、スーパーカー愛好家垂涎の情報をいち早く知るのは実にスリリングな体験でした。特に記憶に鮮やかなのは2017年、ウラカン・ペルフォルマンテのローンチです。「限界を押し広げ、さらなる進化を遂げる」という企業ビジョンの通り、この新モデルはニュルブルクリンクのノルトシュライフェで市販のスーパーカーとしては史上最速(当時)となるラップタイム6:52:01を叩きだしました。V10エンジンの最大出力は640HP、0-100 km/h加速は2.9秒、トップスピードは325 km/h超。何よりも無駄を極限まで削ぎ落したクリーンなボディラインは風に切り取られた彫刻、いえ、風そのもの。このモデルを前にすれば、BMWなど独活の大木、フェラーリなど移動式サーカスにしか見えません。(注:あくまでランボびいきの主観です)私はこう思うようになりました。車の究極の魅力はエンジン音ではないかと。電気自動車がなんだ。クリーンエネルギーがどうした。RON98スペックのハイオクを満タンにして、V10エンジンの猛り狂うようなエンジン音とともに駆け抜けるスーパー・スポーツカーほどクールなものはありません。(注:私は環境配慮を推進しております)ここ最近はそうしたダブルヘッダー的な仕事は見合わせておりますが、どの3月も深く記憶に刻まれております。

フェルッチオ様のストーリーを編集しているさいに、ふとあることが頭をよぎりました。エミリア・ロマーニャ州という美食とワインの地で生を受けたフェルッチオ様のこと、きっとワインがお好きだったはずだと。やはりそうでした。1960年代の終盤から徐々に自動車業界を離れ、ワインづくりを始めておられたのですね。ウンブリア州とトスカーナ州の州境にあるなだらかな丘陵を購入し、ブドウの木を植え、ワインを醸造しておられました。さすがはフェルッチオ様、スーパーカーづくりで体現した伝統と革新の融合をここでもやってものけておられます。サンジョベーゼやグレケットなどの土着品種とともに、当時は前例がほぼ無かったというカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロと言う国際品種の栽培を断行し、土着品種とのブレンドを試みておられました。

先日、ランボルギーニ チェンタンニ ロッソ ウンブリア(ランボルギーニ生誕100周年記念ワイン)を飲みました。ワインを口に含み、またしてもフェルッチオ様の計り知れぬ度量に言葉を失いました。「ウンブリア州土着品種のブレンド」という製品情報や、「ミウラの血」を思わせるボトルの外観から、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノのような濃厚な果実味とコクを予想していたのです。その予想に反して、紫がかった鮮やかな赤のワインは野生の花のような繊細さと穏やかさに満ちていました。(おすすめはブルゴーニュグラスで飲むことです!)

子供の頃に道端で食べた野イチゴの香りがしました。(昔はそんなことがあったものです)干し柿ともイチジクともすももともつかぬ素朴な風味に加え、酸味とタンニンがさざ波のように口の中に広がりました。褐色の大地、そこに力強く芽生える草花、太陽の光のイメージが押し寄せました。これは生粋のイタリアンワインです。緻密さとワイルドなパワーの両方を備えた、紛れもないランボルギーニのDNAを体現するワインです。

感動することに理屈や知識は不要です。車をよく知っているのか、ワインをよく知っているのか。そんなことは感動することそのものにまったく関係はありません。眺めるだけで口に含むだけで感性を揺さぶられる。それがランボルギーニの世界だと私は思っています。

今も毎週のように案件が入ってきます。どれもフェルッチオ様の血-DNA-を継承していくために必要不可欠なもの。そのような案件に関わることをこの上ない栄誉と思っております。

近い将来、サンタアガタ・ボロネーゼの工場とミュジアム、ウンブリア州のワイナリーを訪問しようと思います。これまで机上で指と文字を通して得ていた感動を、この身で体験することに今から心躍る思いです。

敬具

冨永真奈美

*2020n年に公開したエッセイに加筆修正をしました。

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