ライター、ワインエキスパート【冨永真奈美】

WINE & FOOD

パソ・ロブレスー誰もが夢を追える、クールで多様性豊かなワイン産地

パソロブレスの生産者たち

カリフォルニアワイン協会は、年に一度大規模な試飲会「ALIVEテイスティング」を開催している。2024年度のテーマはパソ・ロブレス。試飲会前日に行われたプレスイベント「多彩で魅力あふれるパソ・ロブレスのワインとアメリカンBBQ食体験」(2024年2月19日昼の部、ウェーバーストア青山)に参加した。

筆者は実のところ、パソ・ロブレスという産地に非常に興味を持っていた。なぜなら「このカリフォルニアワインとても美味しい。どの産地だろう」と調べてみると、パソ・ロブレスに行きついたという経験が何度もあるからだ。クリストファー・タラント氏(パソ・ロブレス・ワインカントリー・アライアンス(PRWCA)のコミュニケーション・ディレクター)のプレゼンテーションを聞きつつ、さらに興味が深まることとなった。

米国カリフォルニア州最大のAVAであるパソ・ロブレスは、ブドウ栽培に最適な条件を備えた恵まれた地域である。土壌は30種類以上あり、様々なメソ気候を擁し、昼夜で20~30℃の差があるほど日較差が激しい。このような環境から、しっかりとした果実味、きめ細やかな酸味、そしてボリューム感あふれるワインが生まれる。栽培されているブドウ品種は65種類以上。カベルネ・ソーヴィニヨンなどのボルドー品種やシラーなどのローヌ品種を中心に、イタリアやスペイン品種の成長も著しいという。広大な243,000ヘクタールの地域には250件以上のワイナリーが点在している。

その中でもトップクラスの生産者が来日しているとのこと。昼の部には5つの生産者たちが参加し、それぞれ3種類のワインをふるまった。どのワインも素晴らしいが、各生産者につき1または2種類のワインを紹介したい。

まずはホープ・ファミリー・ワインズのAUSTIN Chardonnayを飲んでみた。カリフォルニアのシャルドネは、しっかりとした新樽香を持つイメージがあるが、このAUSTIN Chardonnayはさわやかな口当たりでトロピカルフルーツのニュアンスもある。「そうでしょう?ニュートラル・フレンチオーク樽を使っています。このワインは2022年ビンテージですが、マルチビンテージで造ることを意図しているのですよ」と、メリザ・ジャルバート氏は説明する。あまりに美味しくて、何度かおかわりをしてしまった。さすがはアメリカン・ワイナリー・オブ・ザ・イヤーに選出されたワイナリーだと納得する。マルチビンテージはさらにふくよかな味わいになるのだろうか。ぜひ試してみたい。

ピーチ・キャニオン・ワイナリーは、高品質のジンファンデルワインで高い評価を築いてきた老舗ワイナリーである。そこで早速、Nancy’s View ZinfandelとBailey Zinfandelを飲んでみた。プティ・シラーがブレンドされたNancyはタンニンがなめらかでとてもエレガント。Baileyはジャミーでどこか懐かしさを感じさせる風味だ。ジェイク・ベケット氏は「ドライファーミング(無灌漑)で栽培すると収量は少ないが優れたワインが生まれます。自然の導くままにブドウを育てているのですよ」と誇らしげに語る。これほど凝縮された果実味のあるジンファンデルは飲んだことが無いと思う。

ジョルナータはイタリア系品種だけでワインづくりをするワイナリーである。Orango Tangoという名のオレンジワイン(ファランギーナ、フィアーノ他)を試飲し、ちょっと絶句してしまった。かつてフィアーノを初めて飲んだ時、「もうフィアーノさえあればよい」と思ったほどその美味しさに感動した。その時の感動が蘇ってきたのだ。ステファニー・テルリッチ氏は、「オレンジワインを創り始めて12年です。すごく人気で、新ビンテージは2カ月で売り切れましたよ」とうれしそうに語る。即完売も頷ける、リピートしたくなる味わいだ。日本未輸入とのこと(2024年2月19日時点)、ぜひインポーターを見つけてほしい。

この日はパソ・ロブレス生まれの「パソ・ブレンド」も堪能した。パソ・ブレンドとは、カベルネ・ソーヴィニョンやメルローなどのボルドー品種の他、シラー、グルナッシュ、ムールヴェードルなどのローヌ品種をそれぞれのワイナリーが独自のスタイルでブレンドしたワインとのことだ。

ラヴァンチュール・ワイナリーはボルドーの「ドメーヌ・ド・クルティヤック」のオーナーが立ち上げたワイナリーである。「AOCボルドーの規制に縛られず、シラーを使ったブレンドをしたい。それもパソ・ロブレスで実現したいとの強い思いがあったのですよ」と、シモーネ・ベラルデッリ氏は説明する。この日試飲したのはEstate Cuvee。シラー、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティヴェルドがブレンドされた、ワイナリーを代表するパソ・ブレンドである。カシスやスミレなどのエレガントな香りが少しずつ波のように押し寄せてくる。ボルドールーツならでは卓越したワインだ。

J. ロアー・ヴィンヤーズ&ワインズのスティーヴ・ロアー氏はこう強調する。「ボルドー品種やローヌ品種をこれほどの高いレベルで栽培できるのはパソ・ロブレスしかありませんよ」。そのボルドー品種とローヌ品種をブレンドしたワインが、Pure Paso Proprietary Red 2021(カベルネ・ソーヴィニヨン、プティット・シラー、ヴィオニエ)である。豊かな果実味が口の中でやわらかく広がり非常に飲み心地が良い。どちらかというと、優れたヴァラエタルワインのイメージがあるワイナリーだが、ブレンドワインも同じく素晴らしい。

イベントでは美味しいワインとともに、パソ・ロブレスで人気のバーベキュー料理も提供された。会場のウェーバーストア青山には、筆者がこれまで見たことも無いようなスタイリッシュで機能性に富んだグリルやアクセサリーが並んでいる。そのグリルで調理した和牛、サーモン、ポークには、しっとりとした食感と香ばしい風味がありとても美味しい。さすがは70年以上のグリルに特化し開発を行ってきたアメリカのメーカーだと納得できる。

ワインを飲みながら、グリル野菜の調理も体験してみた。フカフカのグローブをはめ、ジェノベーゼソースを塗ったナスやズッキーニを焼く。「バーベキューというと具材が乾いて味も焼肉のタレ一つになりがち。ベジタブルバスケットなどを使えば具材がやわらかく保てます。多彩な味付けも楽しめますよ」と、調理体験の講師がニコニコと教えてくれた。バーベキュー料理のヒントも得られ、とても満足のいく調理体験となった。

このプレスイベントは終始、ホームパーティのような和やかな雰囲気のなか進行した。生産者との会話やワインの試飲を通して、パソ・ロブレスというワイン産地の価値や多様性を再発見した貴重な機会となった。パソ・ロブレスのブドウ畑は山や丘陵に囲まれていて、世界で最も美しいワイン産地の一つであるという。ワイナリー巡りだけでなく、天然温泉やセンソリオ(イルミネーションフィールド)など観光名所も多い。ロサンゼルスやサンフランシスコなどの大都市からのアクセスも良く現地での移動手段も充実しているとのこと。近い将来、パソ・ロブレスへ行ってみようと心に決めた。

パソ・ロブレスのワイン


 

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