ライター、ワインエキスパート【冨永真奈美】

WINE & FOOD

本当は自分だけの秘密にしておきたいワインの地と生産者たち―南西地方とPLAIMONTの大いなる魅力とは

PLAIMONT

いつか紹介したいと思うだろうからわざわざ訪ねるのだが、紹介すると自分だけの秘密や隠れ家のような存在ではなくなるから―そもそもすでに有名だし自分だけの秘密でも何でもないとはいえ―やっぱり紹介しないでいようかなと思う。

ついそう思ってしまうのが、PLAIMONT(プレモン)というワイン生産者協同組合と、PLAIMONTがブドウを育てワインを造るフランス南西地方のピレネー山麓からガスコーニュ地方にかけての広大な地域と、PLAIMONTのワインである。

PLAIMONTとは

始まりは1970年代半ば。地元育ちの3代目醸造家Andre Duboscさんが「南西地方のワインの評価を高める」という大いなるビジョンを持って設立した。今ではは約600の生産者が加盟しており、地域でも評価の高いシャトーや農園、修道院もその傘下にある。5,300ヘクタールに及ぶブドウ畑で、3つのAOC(サン・モン、マディラン、パシュラン・デュ・ヴィック・ビル)と1つのIGP(コート・ド・ガスコーニュ)のワインを生産している。

ピレネー山麓でのあたたかなおもてなし

サン・モンにあるPLAIMONT本社オフィスを訪問したのは昨年2024年5月だ。ボルドーから車で1時間30分ほど、ピレネー山麓からガスコーニュの一帯にかけて、緩やかな起伏のある丘陵地帯を車窓からワクワクしながら眺めた。パッチワークのように区切られたブドウ畑とその他農地、点在する森林地帯、やわらかな雲と青空・・・・・・それらが一体となった、のどかで牧歌的な景観がどこまでも広がっていた。

サン・モンにあるPLAIMONT本社オフィスで、 Olivier Bourdet-Peesさん(CEO)、Fabien Olaizさん(Export Director)、Laure Mene-Castillouさん(Communication & PR Manager)が迎えてくれた。お忙しい中、丸一日かけて地域の貴重かつ魅力あふれる場所を案内してくださり、数多くのワインや地元料理を楽しむ機会もくださった。

2002年に開設されたフランス初の私設ブドウ品種保護施設(MONUMENT HISTORIQUE)も訪れた。ここでNadine Raymondさん(Deputy Director、Winegrowers of Saint Mont)自らの説明を受けながら、絶滅寸前だったという固有品種の木々を観察した。各品種の特性を研究するとともに大切に保存し、必要であれば広く栽培を行うために使用するとのことだ。

緑なす丘陵地帯の間を縫うようにして車で向かった先で、樹齢200年を超えるブドウの古木を見た時の驚きは忘れられない。フランスの歴史的記念物に登録されたこのブドウ樹は、19世紀後半にヨーロッパのブドウ畑を壊滅させたフィロキセラの大災害を生き延びた。

こうした一年前の記憶は衰えるどころか、時が経つほどにさらに力強く鮮やかさを増していく。もう一度、いや何度でも訪れてその魅力を探求したい。かなり広い地域だから1週間でも足りないな。車もレンタルしないと・・・・・・などと、気持ちだけは前のめりになるのだった。

東京で再会                                                 マスタークラスと日本限定版アッサンブラージュの特別イベントを開催

うれしいことに、私が再訪するよりも先に、PLAIMONTのみなさんが東京にいらっしゃった。Olivier さん、Fabienさん、Laureさんといったなつかしい人々とともに、Olivier Dabadieさん(President)、Christine Cabriさん( Head Winemaker)、そしてXavier Thuizatさん(フランス最優秀ソムリエ、パリ最高峰のホテル「オテル・ド・クリヨン」のチーフ・ソムリエ)が来日された。

来日の目的は、PLAIMONTワインのマスタークラス(2025年4月14日、トランクホテル)を開催すること。またその翌日、「Le Faîte」(AOCサン・モン)の日本限定版アッサンブラージュ(rouge 2023、blanc 2024)を、日本のワイン業界関係者とともに決定するという特別な試みも行われた。双方ともに講師・案内役となったのはXavierさん である。

PLAIMONTの美味で個性的なワインが勢ぞろい

マスタークラスでは厳選された15種類のワインをテイスティングした。その中にはもちろん、Le Faîte(赤・白)も含まれていた。そもそも1年前にボルドーからちょっと遠出してでも南西地方のPLAIMONTを訪ねようと決めた理由は、Le Faîteがあまりに美味しいので、そのワインを造る人々や土地をこの目で見たいという強い探求心があったからなのだ。赤はタナ、ピナンク、カベルネ・ソーヴィニヨンのブレンド、白はグロ・マンサン、プチ・クルビュ、アルフィヤックのブレンド。いずれも南西地方AOCサン・モンを完璧に体現するワインである。Le Faîteにはまた、紙ではなく木製のプレートで作られたラベルがかけられているという特徴がある。特別なボトルを地中に保管する際、地中でも傷まない木製のラベルを付けるという伝統を受け継いでいるそうだ。

Le Faîte含めPLAIMONTのワインはとても美味かつ個性的。だからどのワインもおすすめなのだが、マスタークラスで供されたものから、以下にいくつかLe Faîte以外の特におすすめワインを紹介する。

Cepages Preserves Blanc Sec(白)

Cirque Nord Saint Mont(白)

Les Vieilles Vignes Rouge(赤)

Chateau de Sabazan(赤)

Crouzeilles Cote Abeilles Madiran(赤)

Les Vignes Prephylloxeriques(赤)

また、マスタークラスでは供されなかったが、現地で飲んでとても気に入ったワインも紹介する。

Monastère de Saint-Mont Rouge(赤)

おさまらない探求心

私はPLAIMONTのワインが大好きだが、すべてのワインを飲んだわけではないし、現地を訪れたのは1度だけだ。ただ、日本在住のElise De Potterさん(Asia, Pacific & Middle East export manager )は友人であり、彼女の親切で丁寧な人柄をも通してPLAIMONTのワインにふれている。1年前のあたたかなおもてなしも相まって、PLAIMONTとそのワインへの親しみと敬意が自然と育まれているのは事実である。

PLAIMONTのワインの魅力と力強さは、技術的な完成度だけでは説明できない、この地域の人々のぬくもりと誇り高さにあるとと思う。自分たちのテロワールを守り抜こうとする使命感、首都パリから遠く離れた地方ならでは確固たる独立心、訪れる人を温かく迎え入れる大らかさ・・・・・・そんな気質がPLAIMONTのワインにも反映されているように思う。

生産者の被るベレー帽、修道院、ガスコーニュ、バスク、ピレネー、オクシタニー、ミディ=ピレネー地域圏・・・・・・この地域の魅力を解き明かすキーワードは数多くある。

必ず近い将来、再び訪れてじっくりと探索し、広く読まれる記事を書こうと思う。

牧歌的風景

樹齢200年のブドウ樹
樹齢200年を超えるブドウ樹。ブドウ樹の鼓動が感じられた。

 

 

 

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