この4月から、約3年ぶりに広島の実家を訪れている。
コロナ禍のせいで実に3年間もの時の分断を経て帰った実家や故郷は、なんというか、最後にいたのは昨日だったような。10年前だったような、30年前だったような。早い話がそう大きな変化はない。
でもそれが良いのだ。自分は絶対に帰ってくると約束できないくせに、いつ帰ってもそのまま変わらずあって迎え入れてほしい。そんなまったくもって自分勝手な思いを抱くのが、実家や故郷というものではないかと思う。
そう大きな変化はないが、意外な変化があった。ビール党だったはずのうちの母が、この3年間でワインに興味を持ち飲むようになっていたのである。
帰った日の夕食時、すでに食卓にワインボトルが置かれていた。(以下、広島弁)
「いやね、最近、ケース買いしとるんよ」と、ワインの雑誌やカタログをうれしそうに見せてくれた。「あんた時々ワインの記事を書いとるじゃろ。それ読んどると、飲みとうなってね」という。
それはライター冥利に尽きる。しかし次の展開で顔が固まってしまった。
「昨日からよう冷やして準備したんよ」とニコニコしながら、ボルドーの赤ワインをこちらによこしてくれる。カベルネソーヴィニヨン、メルロー、カベルネフランからなるフルボディの赤ワインがキンキンに冷えている。これだけ冷えてたら意外に美味しかったりしてね。
うちの母は、ワイン検定ブロンズクラスで想定される生徒層にぴったんこマッチするよね。そう思って笑ってしまった。ブロンズクラスの受験を勧めてみようかな。
ちなみに私の母は筋金入りの教育専門家である。教育委員会で指導主事を務め、校長として理想とされる公立小学校をつくり上げたことが高く評価され、文部科学省から教育功労賞を、平成天皇(現上皇)から叙勲を受けとった人である。
そうだ。ブロンズクラスとシルバークラスの模擬授業を見てもらってダメ出ししてもらおう。まさにどっちも学べて一挙両得だよね!
うちの母はいわゆる働く女性の先駆者であり、おまけに早いうちに夫(つまり私の父)に先立たれて大変な苦労を背負って生きてきた人だと思う。母がしっかりした賢女であってくれたおかげで、私は実家のことをあまり心配せず、自分の人生を自分十分に生きてこられたと思う。それについてとても感謝している。
「青は藍より出でて藍より青し」にはまだまだ道半ばだが、ワインを通してなにか恩返しできるかなと思う。
うちは宮島まで約30分圏内にある。一応オーシャンビューだ。(海が見えるというだけの話だけどね)瀬戸の海は穏やかで美しく、刺身は美味しいし日本酒も旨い。クイーンエリザベスなどの豪華客船も航路に組み込むほどの多島美も自慢である。瀬戸内クルーズの記事を書いたときは「やっぱりよいとこだなあ」といつにもまして力が入った。
そんな実家と故郷は、たぶん、母のおかげでこれからもそのまま変わらずにいてくれるように思う。
追伸:実家の立地がなかなか良いので、各国の友人がよく遊びに来たよなあ。Airbnbとか活用したら結構人気出て儲かったりしてね。