ライター、ワインエキスパート【冨永真奈美】

CULTURE & ENTERTAINMENT

RadioHeadのThom Yorke(トム・ヨーク)に会ったあの日、 Sting(3/11、有明アリーナ)、Deep Purple(3/13、日本武道館)、英国ミュージックの週末

Sting

RadioHeadのThom Yorke(トム・ヨーク)に会ったことがある。
ほんの数分、間近で見て挨拶をしただけではあるが。

90年代半ばの夏のこと。英国人の友人ポール君(仮名)が旅行会社を創業し、そのツアーのアテンダントとしてオックスフォードに行った。彼の地は言わずと知れた名門オックスフォード大学を擁する古式ゆかしい街である。

ツアー中、多くの人々がポール君の自宅兼事務所を出入りしていた。その中に、レイチェルさんというとても魅力的な女性がいた。ボブカットと鼻のピアスがあれほど様になる人はそれ以前もそれ以降も見たことが無い。そのボブカットがあまりに素敵で、私は滞在中に同じボブカットにしてもらったほどだ。まあ同じには見えなかったけどね。アーティストのレイチェルさんは「写真に詳しいんだな」と思った。写真へのコメントのレベルが普通の域をはるかに超えていることは分かったからである。ツアーのプログラムに組まれていた彼女の英語や英国文化に関する授業はとても人気があったと記憶している。

ポール君は「彼女、クールでしょう。ボーイフレンドは有名なミュージシャンだよ」と言う。へえ、見てみたいなあと思った。その有名なミュージシャンのボーイフレンドに。

その機会は数日後に訪れた。オフ日に映画でも見ようと映画館を訪れたら、その前にレイチェルさんがいたのだ。隣にはあの有名なミュージシャンのボーイフレンドらしき人物がいる。(ちなみに見た映画は『バタフライ・キス(Butterfly Kiss)』。哀しい映画だ)

いやはや、ものすごくカッコよい人だった。
「楽しんでね」と手をひらひらと振ってくれた。

タイムマシンがあったら当時に戻って自分の頭を思い切りどついてやりたい。「カッコよくて当たり前じゃん、RadioHeadのThom Yorkeなんだから。サインくらいもらえ」と。

その後、ポール君に「昨日ちょっと見かけた。カッコいいね」というと、「でしょ。あのヒットした曲、レイチェルのことを考えながら創ったはずだよね」という。

それは今にして思えば『Creep』だったはずだ。名曲である。あのきわめて素直な心情の吐露が好きで時々聞いている。

私は高校時代にDeepPurpleにはまり、大学時代にSting(とPolice)にはまった。しかし、RadioHeadのことは知らなかった。真の英国ミュージック愛好家がこれを聞いたらあきれかえることだろう。

さて、2022年の11月。そのDeepPurple とStingという英国の誇るロックバンドが東京でコンサートを開催すると知った。それも3月11日、13日と開催日も近い。早速チケットを購入した。

そのさい、レイチェルさんのことをふと思い出し検索してみた。きっと活躍しているはずだと思いつつ。しかし残念なことに、レイチェル・オーウェンさんは2016年に癌が原因でお亡くなりになっていた。写真家、版画家、中世イタリア文学の講師として活躍していたとのこと。トム・ヨークとの間に2人の子どもさんがいた。

あの夏、帰国してから、レイチェルさんと一度だけハガキを送りあった。まだインターネットもSNSも一般に普及していない頃だ。レイチェルさんのハガキはスタイリッシュで素敵だった。数週間程度話すだけではあったが、非常に思慮深い話し方が今でも記憶に残っている。

3月11日と13日は、StingとDeepPurpleのステージに没頭しながらも、レイチェルさんのことを時々考えていた。

私は真の英国ミュージックファンとは言えないかもしれない、しかし、なぜか大好きになりいつまでも聞いているのは英国バンドの音楽なのだ。なんでかな。StingとDeepPurple、そしてRadioHeadの曲は今後も私の人生を豊かにしてくれると思う。

*他にも好きな英国バンドはたくさんあるんですよ。

記事をシェア